SCOPE GROUP Sustainability

江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.05

2030年までにSDGs17の目標を達成するため私たちにできることはなにか? わたしたちは、そのヒントを江戸時代の暮らしの中に見つけました。太陽と植物の恩恵を活用し豊かな物資とエネルギーをつくり出していた江戸時代の人々。衣食住のあらゆる面でリサイクル、リユースに基づいた循環型社会が築かれていました。その江戸時代の知恵を活かし、日常でできるアクションをはじめましょう。

<参考文献>
阪急コミュニケーションズ 江戸に学ぶエコ生活術
アズビー・ブラウン:著 幾島幸子:訳


江戸時代の日本橋は、魚屋や調味料店や調理済み食品のお店など、さまざまな商店が立ち並び、町人たちに親しまれていました。そして賑やかでありながら、日本橋はとてもきれいな町でもありました。出されたゴミはきちんと回収・リサイクルされ、町はいつも清潔に保たれていました。

 「全ての道は日本橋に通じる」という言葉はよく耳にしますが、これは江戸時代に徳川家康が東海道、中山道、甲州街道、日光街道、奥州街道の五街道を整備し、その街道の起点が「日本橋」だったからといわれています。また日本橋にはこの五街道と共に繁栄した魚河岸もあり、これは「東洋のベニス」と例えられ、「日本橋 竜宮城の 港なり」と川柳でよまれるほどでした。これらの交通網と海運によって日本全国からたくさんの物資や人々が集った日本橋は、江戸城の城下町として発展していきました。1800年(寛政12年)頃には、江戸の町の人口は約120万人に達し、同時代のパリが約50万人、ロンドンが約90万人だったのに比べても大都市だったことがうかがえます。その江戸の中心が「日本橋」でした。当時の日本橋は浮世絵や資料からもわかるように、大きな通りには人や荷車が行き交い、大変賑わっていたことがわかります。

人も商店も密集した大都市でありながら清潔でゴミがほとんどなかった日本橋から、ゴミ削減のヒントを見つけてみましょう。

 

リアルな買い物を楽しむ
 江戸の中でも人と店が最も集まる日本橋。惣菜から家庭用品、お守り、香辛料、草履までありとあらゆるものが売られ、荷物を山積みにした大八車も行き交っていました。
 現代は、ネット販売という便利なシステムが構築されています。コロナ禍の影響もありその市場は爆発的に拡大しましたが、その一方で見た目や匂いなどを五感で体験するリアルな買い物の需要も健在です。リアルでのお買い物にはサステナブルな点がいくつかあるのをご存じですか?
・実際に触れたり試したりすることで、今まで知らなかった物に出会ったり、自分でも気づいてなかったニーズや好みを知ったりするきっかけが得られる。そういった体験を通じて購入したものには愛着が生まれやすくなり、長く愛用することにつながる
・持ち帰り可能な商品は配送が不要となり、運輸燃料・梱包材の削減、物流業界の人手不足課題の解消になる。

 

食品ロスを減らす工夫
 人が多く集まる大きな町にはゴミの問題がいつもつきまといます。17世紀頃パリやロンドンといった大都市ではゴミの放置による汚染や悪臭が市民を悩ませていました。しかし、江戸時代の日本橋には、腐敗が進んで不快な匂いを放っているようなゴミの山は見当たりませんでした。出されたゴミは荷車に積まれ堆肥などにリサイクルされるため町の外に運ばれていたので、町は清潔に保たれていました。
 現代の家庭での資源・ゴミの回収は、各地域の行政が対応しています。また、飲食店や企業から出るゴミは、各団体が行政認可の廃棄業者を手配し処理しています。そして大量のゴミの中でも「食品ロス」が今大きな社会課題になっています。令和5年6月に農林水産省が発表した令和3年度の食品ロス量推計値は、523万トンとなり前年度より1万トン増加しました。このうち食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量は279万トン(前年度比4万トン増)、家庭から発生する家庭系食品ロス量は244万トン(前年度比3万トン減)となりました。

※引用:https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/230609.html

日本で増えている食品事業系店舗から出された食品ロス。この対策事例ですが、SDGs大国スウェーデンのスーパーマーケットでは、お店で出た廃棄食品を店内にある堆肥製造機で堆肥にして、そのまま販売している店舗があるそうです。
この食品ロスの削減に対して、私たちにできることを考えてみました。
・「予約販売」の活用。計画生産が可能となり過剰供給によるロスを防ぐ
・「てまえどり」の習慣化。すぐに使うものは賞味期限が一番近いものを取る
・「わけあり商品コーナー」の活用。今日明日使うものがあればと立ち寄る習慣をつける
・「3010運動」で宴会での食品ロスを減らす。乾杯から30分間とお開き前の10分間は自分の席で料理を楽しみ、食べ残しを減らす。

 

外食・中食の魅力
 ゴミがほとんどなく清潔さが保たれていた日本橋では、色々な場所でさまざまな良い香りに出会うことができました。近くにあった魚河岸の魚の匂い、家具屋の生漆、畳屋のい草、箱屋の削った木の香りなど、どのお店も特有の香りを放っていました。そして、日本橋一帯を覆っていたのが、美味しそうな食べ物の匂いと、食べ物を煮たり焼いたりしている煙、そして潮の香りでした。
 現代で、通りがかりで引かれる香りといえばパン屋、カレー店、鰻屋、ショッピングセンターのイートインコーナー、百貨店の物産展などが思い浮かびます。また、煙に引かれるといえば焼鳥屋、ホルモン焼屋などでしょうか。江戸時代でも現代でも、人は香りの魔力には抗えませんね。香りで私たちを引き寄せる外食と中食(※1)には、サボりや浪費といったイメージがありますが、意外にもサステナブルなポイントが隠れているのです。そのポイントを外食と中食の魅力を紐解きながら、併せてご紹介します。

①外食の魅力
・自炊とは一味違うプロの味、お店独自の味を楽しめる
・食事だけでなく接客などのサービスを受けることができる
・いつもと違う味や雰囲気で気分転換に
・準備や後片付け要らずで楽ちん
・自宅から出るゴミの量や燃料費を削減できる

②中食の魅力
・自分が食べたい量、食べられる量だけを買うことができるので食品ロスの削減につながる
・選択肢が多く自分では作るのが難しいメニューでも楽しむことができる
・自炊では偏りがちな栄養をバランスよく摂ることができる
・自宅で本格的な料理を楽しめる
・準備や後片付けも簡単で、手軽に食事が済ませられる
・燃料費を節約できる

※1中食(なかしょく)=家庭外で調理された食品を購入して持ち帰る、または配達などによって家庭内で食べること。

〈イラスト・画像素材〉PIXTA


 江戸時代の大都市であった日本橋は人と店がごった返す賑わいで、買い物を大いに楽しんでいた人と、そこで商売を繁盛させていた商人たちの交流が繰り広げられていました。それだけの喧噪にもかかわらず町が清潔に保たれていたのは、江戸時代の人々のゴミを極力出さない暗黙のルールとポリシーがあったからだと思います。それは当時の人々の誇りとなっていたかもしれません。そして自炊と外食・中食を絶妙なバランスで楽しむその姿には、今でいう江戸の粋を感じます。
 現代の日本橋は行政、企業、民間が協力した体制で橋や川の清掃活動や周辺エリアの花の植え替え活動など、サステナブルな活動が継続して行われています。2004年以降日本橋には、さまざまな商業施設が開業し、昔と同様の賑わいが戻ってきています。そして最近では、2040年までに「日本橋周辺の首都高速道路を地下化する」という取り組みがスタートしたこともニュースで話題になりました。わたしたちは近い将来、昔のような眺めのいい「日本橋」を見ることができるかもしれません。

※「日本橋周辺のまちづくりと連携し首都高速道路の地下化に向けて取り組みます」(国土交通省)を編集して作成:https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_000863.html

 現代のわたしたちは、買い物をさまざまなカタチで楽しむことができます。一方で、楽しんだあとにポイっと捨てられたゴミがあふれてしまっている光景を、繁華街でも住宅街でも日常的に見かけます。町で捨てられたゴミは風に飛ばされ雨に流されて、川や海へと流れ出し海洋ゴミになります。海洋ゴミは、大きな社会問題の一つです。つまり、町を清潔に保つことは海洋ゴミの削減につながるといえます。そして、自分が住んでいる町のゴミ問題を解決できるのはわたしたち自身です。今回ご紹介したアイデアの中にも、ゴミ削減につながるものがいくつもあります。ぜひ実践してみてください。
 もちろん、周りの人や友人、家族と話し合って、現代ならではの新たなアイデアを出すことも大切です。わたしたちも、みなさんも、サステナブルな意識を常にもって行動し続けていきましょう。