SCOPE GROUP Sustainability

江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.04

2030年までにSDGs17の目標を達成するため私たちにできることはなにか? わたしたちは、そのヒントを江戸時代の暮らしの中に見つけました。太陽と植物の恩恵を活用し豊かな物資とエネルギーをつくり出していた江戸時代の人々。衣食住のあらゆる面でリサイクル、リユースに基づいた循環型社会が築かれていました。その江戸時代の知恵を活かし、日常でできるアクションをはじめましょう。

<参考文献>
阪急コミュニケーションズ 江戸に学ぶエコ生活術
アズビー・ブラウン:著 幾島幸子:訳


江戸時代の食事は、そのまま生で食べる・塩漬け・燻製・漬物など、燃料消費が少ない方法で済ませていました。人々にとっては節約ですが、実はそれは自然保全にもつながっていました。
江戸時代には食事の面で燃料を節約するため、食べ方や調理方法、道具の工夫がありました。また、江戸の町のように大きな都市では、調理済みのものを売る屋台や飲食店も多く立ち並び、今でいうテイクアウトやイートインのスタイルでも食事を楽しんでいました。調理済みの食べ物の値段は未加工の食材より少し高くはありましたが、自宅で調理する場合の燃料費に比べると買う方が安上がりになることが多かったようです。
江戸時代のエネルギー消費が少ない食文化からヒントを得られるよう、事例をいくつかご紹介します。


  

江戸の町の食事情
江戸湾は、今の東京湾より水質や周辺の環境もよく、資源が豊富で漁獲量の管理も行き届いていました。漁師は海岸が見えるほどの近距離でも十分な量の魚介類を取ることが可能でした。江戸湾で取れた魚介類は人々にとっても人気が高く、それをさらなるごちそうに格上げしたのが、江戸の四大グルメの一つ「江戸前寿司」でした。江戸の町では毎年、料理店の手引き、現代でいうところのレシピ本、グルメ本が何冊も発行されていました。本の中では目新しい料理が数多く紹介され、遠方からの旅行者や美食家を引きつけてやみませんでした。
また、町にはありとあらゆる種類の屋台や飲食店が約2,000軒立ち並び、大量の食べ物を効率的に調理して売っていました。例えば串に刺した魚を炭で焼いたものや温かい甘酒なども買うことができたのです。屋台や飲食店は、質の高い食べ物を提供するだけでなく、灰は捨てずに灰買いに売るなど燃料、水、ゴミの問題に配慮しながら商いをしていました。
現代でもサラダや刺身といった食材を生のまま食べるメニューは多くあります。自炊する以外にも外食や中食(※1)で済ませることもできます。近隣店舗に行ったり、インターネットで注文したり、選択肢も充実しています。また、商業規模で大量に調理された食べ物を利用することも、燃料を効率的に使う一つの方法です。たった1個のカップケーキを焼くために1時間オーブンで焼こうと考える人は少ないと思います。内食(※2)や外食、中食をうまく組み合わせて3者の利点を生かした食事のスタイルは、燃料・冷凍・輸送・保存などの面で省エネになります。外食・中食でプロの味やその店独自の味付けを楽しむのもいいでしょう。

※1中食(なかしょく)=家庭外で調理された食品を購入して持ち帰るまたは配達などによって家庭内で食べること。
※2 内食(ないしょく・うちしょく)=家で素材から調理したものを食べること。自炊すること。


調理方法
江戸時代の食卓は、調理していない生の食品、室温で提供される食べ物、塩漬け、燻製、そして漬物で構成されていました。
江戸の町で生の食品といえば江戸周辺で取れる魚介類でした。大半は水揚げしたその日に食べるのが基本で(一部は、干す、塩漬け、油漬けにして保存するものもありました)、江戸湾から市場、そして市内の何万という台所まで、たった数時間で魚が届けられる、現代とほとんど差がない物流システムがありました。この仕組みのおかげで、少ないエネルギーでも江戸の町の人口を支えることができていました。
現代の日本でも、サラダや刺身は人気の高いメニューです。これらのメニュー以外にもエネルギー効率がいい調理法があります。その一例をご紹介します。

◉加熱が要らないサラダ向け生野菜、刺身、豆腐、缶詰などの食材を積極的に選ぶ。
そのまま食べる以外にも他の食材と和えることで、味はもちろん彩り豊かに食事を楽しむことができます。
◉火を使わない「塩もみ」で野菜をいただく。きゅうり、白菜、大根、キャベツ、茄子などがおすすめです。
◉火の通りやすい食材を選ぶ。
お肉なら薄切り肉、ひき肉、鶏のささみ、魚介類ならいか、たこ、ホタテなどです。


調理道具とその活用
江戸時代では調理道具もエネルギー消費を少なくする工夫が施されていました。例えば火鉢ややかんは少ない燃料でもお湯が沸かせるようデザイン設計され、その形状も時代とともに変化していきました。また、調理済みの食べ物、つまり現代におけるお惣菜のようなものを外で買う習慣があり、この習慣は家での燃料使用量を少なくするのに役立っていました。煮炊きのための小さなかまども火力が調節できるようになっており、燃料消費を最小限にできました。
現代ではガスや電気の利用をやめることはできませんが、エネルギー消費を減少させる工夫があるのでいくつかご紹介します。

①「保温調理」
鍋やフライパンで調理する際、通常より加熱時間を短く、あるいは沸騰後に火を止め、余熱を利用してさらに食材に火を通します。余熱をさらに効率的に利用するために、沸騰するやや手前で火を止め、鍋やフライパンを厚手のバスタオルや毛布でくるむという方法もあります。
また、保温調理鍋を利用するのもおすすめです。

※火の取り扱い、火傷にご注意ください。

②「同時調理」
フライパン、グリル、オーブンなどの一つの調理道具で複数の食材を同時に加熱する方法。食材が交わらないように仕切りを使い同時に茹でる、炒める、蒸すなど。

③「省エネ術」 
(1)コンロなどで鍋の湯を沸かすときは、鍋底の水気を拭き、ふたをして、炎が鍋底より小さくなるよう火力を調整する。
(2)飲料としてではなく、湯せんなど調理の手段としてお湯を利用する時は、給湯器の温水からお湯を沸かすとエネルギーの節約になる。
(3)冷蔵庫を使用する際は、食材を詰めすぎない。加熱した料理は一旦、冷ましてから入れる。中身を把握して手早く取り出すことを意識する。季節や気温に合わせて冷蔵庫内にある温度設定するためのつまみやボタンを「強」から「中」に、これだけでも年間1.2%〜1.8%の節電効果が得られる。
(4)炊飯器やポットを使用する際は、長時間保温することを避け、お湯は保温ボトルなどに入れて温度を保つ。
(5)炊飯器やポットなど、家の中にある使わない電気製品は、本体の主電源を切る。また長時間使わない時は、コンセントからプラグを抜いて「待機電力」をなくす。年間0.5%〜0.8%の節電効果がもたらされる。

※(2)、(5)経済産業省資源エネルギー庁「省エネポータルサイト」を編集作成。https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/howto/kitchen/index.html#4

※(3)経済産業省資源エネルギー庁「スペシャルコンテンツ」を編集作成。https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/setsuden_tips.html?ui_medium=lpene

最近では、自炊を簡単かつ手軽に済ませられるよう、多種多様なキッチン家電が開発・販売されています。各メーカーも省エネ技術向上に取り組んでいます。それでもまだ冷蔵庫、炊飯器、オーブンレンジ、ポットなどは電力を多く消費します。家電を選ぶ際は利用人数、利用頻度も考え、消費電力が少ないものを選択するようにしましょう。


〈イラスト・画像素材〉PIXTA

江戸時代の各都市にはそれぞれの驚くべき食文化があり、伝統的な日本の食事として現代にまで継承されている食べ物や食べ方もあります。これらの食文化の背景には、町と人々の「食を大切にする心」があったように感じられます。町には屋台などの調理と販売のインフラが劇的に発達し、人々はそれらを大いに楽しみ、各世帯では燃料節約の食事づくりに励み、すべての人たちが燃料・水・ゴミに配慮していました。
現代のわたしたちは、毎食において食事を取る人数や量を考え、外食・中食・内食と食事のスタイルを選ぶことができます。そして「食を大切にする心」を持ちながら食における持続可能な効率性を考えることが重要だと感じます。
もちろん、周りの人や友人、家族と話し合って、現代ならではの新たなアイデアを出すことも大切です。わたしたちも、みなさんも、サステナブルな意識を常にもって行動し続けていきましょう。