SCOPE GROUP Sustainability

SCOPE GROUP SDGs未来塾 第3回店舗SXセミナーを開催しました。里山の暮らしから学ぶ商いへのヒント

感性を揺り動かすバーチャル視察ツアー

スコープグループは12月17日(土)~31日(土)の15日間、無料・公開セミナー「SDGs未来塾」店舗SXセミナーVol.3を開催しました。今回のテーマは、「里山ソムリエに学ぶ、みんなを幸せにする暮らしのメソッド」。里山の暮らしを圧倒的に美しい映像で体験し、気づきを生む新しい学び方を試みました。これまでの未来塾と趣向を変えた新しい学び方は、講義を聞いて知識をインプットするスタイルではなく、感性に訴える映像体験「バーチャル視察ツアー」で気づきを大切にする「エデュケーション(education:引き出す)」というスタイルです。参加者各々が豊かで気分がいい里山の暮らしを体験し、売り場づくり・商品提案・お客様とのコミュニケーションづくりなど店舗におけるサステナビリティーの実装手法を探ろうという企画です。

講師でありバーチャル視察ツアーのナビゲーターを務めるのは、里山ソムリエの黒田三佳さん。世の中には「ワインソムリエ」「野菜ソムリエ」など、いろいろなソムリエの資格がありますが、里山ソムリエは公的資格ではなく、黒田さんオリジナルの肩書です。黒田さんは客室乗務員時代を経てデンマークで暮らした後、東北の米沢市に移住し、今は里山での暮らしの魅力を地元の人々と創造し、それを著書やラジオ番組で紹介しています。

(写真:著書『森に暮らす』を2022年5月に出版した黒田さん)

さあ、視察ツアースタートです。黒田さんが、実際にどのような暮らしをしているのか、山形県米沢市の里山の様子が画面いっぱいに広がります。

「気分よく暮らす」が随所にある里山

この景色は、外国でもなく、日本の山奥でもなく、黒田さんの自宅の裏庭に続く森です。黒田さんは家族で東京から移住してきて、森を購入し、今は東京ドーム1個分の広さの里山オーナーです。日々、繁る緑の中を散策しては、自生する植物を摘み、食材として調理したり、よそった皿の飾りに添えている、ゆとりと丁寧さあふれる暮らしぶりが映し出されます。黒田さんは客室乗務員として勤めていた頃は、日本にこんな場所があることなど全く知らなかったそうです。聴講者自身もこの景観には驚きで、森をあちこち散策するついでに、食べることもできる野草を手にする日常が、みごとな癒し時間です。黒田さんがくりかえす言葉「気分がいい」は、里山暮らしの重要キーワードです。ツアー映像には「気分よく暮らす」シーンが随所に見られます。

(写真:里山に自生する食べられる野草。ニセアカシア、コゴミ、三つ葉、山椒など。)
(写真:散歩で摘み取った野草がそのまま皿へ。朝から気分がいい食事に。)

里山からSDGsを考える

SDGsについて学んでいる私たちが注目するのは、荒れ放題だった土地に、黒田さんがオーナーとなり人間の手が入ってメンテナンスを施すことで、森が再評価され、地域に価値あるものとして再導入されている点です。里山ができたことで、周辺で暮らす地域の人々はここに集まり、自然の恩恵とともに気分よく過ごしています。クルミの木にはブランコが吊り下げられ、廃木材で建てた展望台から真っ赤な夕日を眺め、先人が残した用水路のせせらぎは耳にやさしい。里山は居心地がよく、子どもたちや大人たちが遊び集まる場所に変わっていっています。

続いて、黒田さんは自然の恵みを活かす知恵も紹介してくれました。
江戸時代、「為せば成る」の言葉で有名な上杉鷹山(うえすぎ・ようざん)公が、飢饉に備えて「糧物(かてもの)」という食べられる植物ガイドを作っていたのだそうです。野草を食べることは、SDGs17目標の2番「飢餓をゼロに」を達成するための有効な方法の1つとも言えます。
近年、サステナビリティー先進国であるデンマークで、「ワイルド・ガストロノミー」(野草を食べること)がブームになっていますが、江戸時代の東北がいかに先進的なサステナブル都市であったか、またそれがここ里山の子どもたちにしっかり根付いているということが実に興味深いです。

(写真:上杉鷹山公のアイデア「糧物」を子どもたちがイラストに描き、カード化)

循環型の暮らしは古きものに価値を吹き込む

セミナー終盤では、黒田さんが実践している循環型のライフスタイルが披露されました。環境にやさしく気分がいい暮らしを実践するにあたり、何を手掛かりにすればよいのか、その指針となるのが「Re(リ)」のつく言葉の数々です。たとえば、「リユース、リデュース、リサイクル」は日本中で合言葉のように浸透していますが、これ以外にも「Re」がつく言葉を黒田さんは独自の視点で集めて「型」にしています。
黒田さんが特に重要だと話すのは、「リディスカバー(再発見)」「リバリュー(再評価する)」「リアクティブベート(再導入する)」の3つです。退蔵され、デッドストックとなっているものを見つけ、日常生活で活用できるように命を吹き込む。それはとても気分がいいことで、暮らしが豊かになります。ついでにごみを減らすこともでき、ごみが出ないようにする根本的なアクション「リデュース」が実現します。

(写真 再導入の事例。左:梁から作ったお箸。捨てられる予定だったものが、おしゃれな一点モノに。
中央:日本ではありふれた柄の皿も、海外の方には目を惹く逸品。
右:デンマークからのお土産でいただいたイヤープレート。)

これらのアイテムは、特段、最新の技術が取り入れられているわけでもなく、多機能・高機能なものでもありません。しかし、「自分にとって平凡なアイテムも、他者から見れば魅力的で、物々交換すればお互いハッピーになれます。丁寧に末永く使いたいと思えることが大切です」と黒田さんは話します。

店舗で意識の転換を。「生産と消費」という枠を壊そう

豊かな里山の「気分よく暮らす」スタイルは、商いの現場でどのように応用できるでしょうか。これからの小売店やスーパーマーケットの役割について、黒田さんは語りだしました。
「都会に暮らす人も、人々の暮らしの中で“気分がいい”要素を増やしていくことが、自然とSDGsへの取り組みにつながると思います。商いでは、生産者の顔が見えていること、つくる人と使う人がどちらも幸せになれる関係性、誰かとつながっていること、ごみが少ないこと、など、“気分がいい”要素はどこかしらSDGsの目標と重なりがあります。」
「物を売ることだけが商いではないかもしれません。お客様に“気分よく暮らす”シーンを思い描いてもらうこと、これもとても大切だと思います。みんなが幸せになるヒントで“こんなことがあったのか”と気づかせてあげること(educate)は、商いをする人こそできること。商品パッケージの表示、接客での説明などのコミュニケーションがある一方で、消費を超えたSDGsを通じてお客様とつながれると思います。」

この黒田さん自身による総括に、聴講者の多くが「視点や考え方を変えてみることも大事」と思ったのではないでしょうか。これまでの日本の商いは、データを解析し、潜在的な顧客ニーズ(お客様のウォンツ)をとらえ、「これ、欲しかった!」と思っていただけることの顕在化が核でした。しかし、黒田さんの視点から、「無かったものや新しいものを作り出すばかりではなくて、いまあるものを、またパートナーシップを組んでみてお互いのいま持っているものを合わせてみること、あるものをつないでいくこと、それを気づかせてあげること(educate)も取り入れることで、SDGs達成やみんなの幸せな暮らしに貢献できる」という気づきを得ました。

セミナー後のアンケートで、聴講者からは「何気ないタイミングでの出会いを体験して気づきを大事に育ててみたい」「里山やデンマークの暮らしを見て3Rになる里山の利点を理解し他のReにも共感した」「里山の空気感は楽しい、都会では味わえない自然や歴史を肌で感じるリアルなツアーに参加したい」という声がありました。

スコープグループはSDGs達成のため、多くの皆様といっしょに学び続け、アクションを起こし続けてまいります。次回のSDGs未来塾も鋭意企画中、2023年のプログラムにご期待ください。

講師プロフィール

黒田三佳さん:里山ソムリエ。人材育成アカデミーローズレーン代表。
国際線客室乗務員として活躍後、デンマークでの暮らしを経て米沢へ移住。著書に『森に暮らす』(山形会議パブリッシング)がある。

関連サイト

里山ソムリエ https://satoyama.roselane.jp/
STEPS 里山ソムリエな日々 https://fm834.jp/programs/steps/