SCOPE GROUP Sustainability

江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.08

2030 年までにSDGs17 の目標を達成するため私たちにできることはなにか? わたしたちは、そのヒントを江戸時代の暮らしの中に見つけました。太陽と植物の恩恵を活用し豊かな物資とエネルギーをつくり出していた江戸時代の人々。衣食住のあらゆる面でリサイクル、リユースに基づいた循環型社会が築かれていました。その江戸時代の知恵を活かし、日常でできるアクションをはじめましょう。

<参考文献>
阪急コミュニケーションズ 江戸に学ぶエコ生活術
アズビー・ブラウン:著 幾島幸子:訳


江戸の町に水を供給していた水源には、「井戸」と「灌漑用の池」の2つの種類がありました。現代の住宅では、料理・食べた後の洗い物・入浴・洗濯などいずれの場合においても同じ水(上水)を使用するのが一般的ですが、江戸時代では飲料水、台所廻りで使う水、洗濯用の水、体を拭くなどの水は井戸から、それ以外の目的に使う水は灌漑用の池からというように用途に応じて水源を使い分け、貴重な水源の節約に努めていました。
家の外にある井戸には屋根が付いていて、水仕事をする部屋のようなものでした。そこで水をくんだり、野菜を洗ったり、たらいに水を入れ洗濯をしたり。飲料水もここからくんで、大きな陶器のかめに入れ家の中に運んでいました。井戸からくんで使用した後の水は灌漑用の池に流し、また次の用途で再利用します。灌漑用の池には、雨・川などの天然水源からの水も流れ込み、池から流れ出た水は田畑や家庭で飲料以外の用途で使用しました。

現代では生活排水による河川や海域の汚濁を防ぐために、環境省や各自治体から生活排水の汚濁負荷削減が呼びかけられています。水の使い方にも節約志向や創意工夫があった江戸の暮らしから、現代の日本で水源を守っていくためのヒントを「台所」「風呂」「洗濯」の視点で探しましょう。

   

   

「台所の排水」

江戸の人々は、台所で洗いものをする際にせっけんに類するものはほとんど使わず、「もみ殻」などの天然由来のものを研磨剤として使い、使い終わったものはすべて堆肥や根覆い(※1)にしていました。排水には野菜などの食料から出た汚れや有機物は含んでいましたが、せっけんや有害な化学物質は含んでいなかったため、水の再利用が可能だったのです。使用した水は台所の外側にある桶(おけ)などに一度流れ、そこから灌漑用の池やどぶへ流れていく仕組みになっていました。

私たちは、シンクの排水口までしか目に入らず、食べ残しの汁や油、洗剤もシンクから流してしまえば終わりという感覚になってしまいがちです。ここでは排水口の先で台所排水の汚濁負荷削減につながるアイデアをご紹介します。

※1)農業やガーデニングに用いる「植物の根を覆い保護する」手法。ここでは土から出ている木の根本や茎を使ったもみ殻で覆い、雑草の繁殖を抑える、地温を調節する、土壌の水分蒸発を抑えるなどをすることをいいます。

1.天然由来成分使用の食器用洗剤を選択または使い分ける。
最近では植物の力で汚れを落とし、排水後も微生物の力で分解される植物由来の成分でできた洗剤が発売されている。食器用洗剤をそういったものに切り替えたり、汚れ具合によって既に家にある洗剤と使い分けたりすることも生活排水の汚濁負荷軽減につながる。

2.食器や鍋類の汚れは水で流す前にできる限り拭き取って、洗剤の使用量を減らす。
再利用ができない油は油処理剤で固めるなどしてゴミとして廃棄する。これによって生活排水で特に環境負荷が高いといわれる油類の排出量の軽減が見込める。

3.調理くずなどは、ネットなどでキャッチし、排水口に流さないようにする。
食べ物や飲み物は、食べ飲みできる量だけを用意するようにして、排水として廃棄する量を減らす。

4.麺のゆで汁を洗剤の代用にする。
麺をゆでると麺の小麦粉からでんぷんとタンパク質がゆで汁に溶けだす。これらが作用して、皿についた油を包み込み(乳化現象という)、浮かび上がらせて落とす。これは、台所用洗剤の界面活性剤が油を落とす原理と同じ。パスタやうどんなどを調理する際には、ゆで汁を捨てずに確保しておき、食後それを洗剤代わりに使用すれば、洗剤の使用量を削減することができる。

   

   

「風呂の排水」

江戸時代では、家に風呂がないことがほとんどで、人々は広々と快適、その上値段も安い湯屋を利用していました。風呂は地元の人同士の交流や娯楽の場でもありました。江戸の町には500軒以上の湯屋があって、2区画歩けばたいてい1軒はあったほどです。1軒の湯屋に大勢が集まって利用するので、町全体で考えると水と燃料の節約と排水設備の負担軽減になっていました。たいていの人は湯屋を数日から1週間に1回の頻度で利用していました。
また、農家の場合湯屋へは行かず、週に1度の入浴を自宅で行っていました。かまどや囲炉裏で沸かした湯を土間か庭に出し大きな桶(おけ)に溜め、家族全員、時には近所の人も一緒になって、順番に体を洗い、湯に浸かりました。これだけの湯を沸かすのは大変な労力で、1日の煮炊きと同量の燃料を使うため、週に1度以上入浴するのは難しかったのです。
体を洗う際にもせっけんは使わず、米ぬかを入れた小さな布袋で体をこすっていました。入浴後に残った湯は灌漑用の池などに流していました。

現代の日本でも、風呂の残り湯を洗濯機にくみ上げて再利用している家庭もあるでしょう。これは使い方に気を付ければ、素晴らしい取り組みで、江戸時代の環境にやさしい生活の知恵が受け継がれている一例だといえます。残り湯の再利用にはめんどうなイメージもあるかもしれませんが、小型の電気ポンプや簡単なサイフォン装置など便利なアイテムはたくさん販売されています。より多くの人の支持を得るためにも、さらに使いやすくエネルギー消費量の少ない商品が開発されることに期待しつつ、生活排水の汚濁負荷削減につながるアイデアをご紹介します。

1.天然由来成分使用の、風呂洗い洗剤・シャンプー類を選択、または既に家で使用している物と使い分ける。

2.風呂の残り湯を温水で洗濯に使う。(※2)
温水は汚れ落ちが良いといわれている。なお、すすぎでは汚れをきれいに洗い流す必要があるので、残り湯ではなく水道水を使うようにする。

3.ヘアシャンプーやボディソープなどの量は適量を使う。
日によってはお湯だけで髪を洗う「湯シャン」も選択肢の一つに。ボディタオルの素材選びで泡立ちを良くする工夫も。

※2)残り湯を使う場合は、入浴剤の種類によって洗濯機の故障の原因となる場合があります。洗濯機の説明書をよく読んで使用することを推奨します。

   

   

「洗濯の排水」

江戸の人々は、井戸あるいは、村によっては近くの小川で洗濯をしていました。その際に使用していたのが灰汁(あく)と呼ばれるもので、紀元前からせっけんや合成洗剤が普及する第二次世界大戦後まで、洗浄剤として一般に広く使われていたものです。江戸の人々も、この灰汁を使って、たらいで手洗いしていました。

現代の日本では、洗濯機の世帯普及率(平成26年全国消費実態調査/総務省)は100%近い水準に達しており、現在1世帯に1台が当たり前となっている家電製品といえます。さらに、洗剤自動投入機能が登場し、洗剤の入れすぎが防げるようになりました。洗濯機の進歩も目覚ましいですが、まずは今日から簡単に実践できる生活排水の汚濁負荷削減へのアクションをご紹介します。

1.生分解性の高いせっけんや洗剤を選択または使い分ける。
生分解性とは、菌類やバクテリアなどの微生物の働きによって、有機物が水やCO2、バイオマスに完全に変換される物質の性質のこと。生分解性の高いせっけんや洗剤への代替えは、生活排水の汚濁負荷軽減につながる。

2.糸くずを取る糸くずフィルターを付けるようにする。
衣類から落ちる繊維くず、特に化学繊維はマイクロプラスチックとして排水とともに川や海に流れ出ると汚染の原因になってしまう。フィルターはそのまま使い続けると、繊維くずが洗濯槽に戻って衣服に付着したり、排水とともに川や海へ流れ出たりする原因になるので、こまめに掃除をする。


<イラスト・画像素材>
PIXTA

都内には、江戸時代にできた上水や飲料用水に関係する地名や駅名が数多く残っています。「玉川上水」、「下高井戸」、「桜上水」、「溜池山王」、などなど。この名称を調べていくと、江戸の町の水道におけるインフラ整備が江戸時代初期には整っていたことがうかがえます。
生活排水の汚濁負荷を減らすには、「流すものは減らす」「余計なものは流さない」という基本の考えを、一人ひとりが行動に移すことが大切です。自宅の台所や風呂、洗濯機の排水口のすぐ向こう側に川や海があるということ念頭に置いて、できることから少しずつ始めてはいかがでしょうか。
もちろん周りの人や友人、家族と話し合って、現代ならではの新たなアイデアを出すことも大切です。わたしたちも、みなさんも、サステナブルな意識を常にもって行動し続けていきましょう。