江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.09
2030 年までにSDGs17 の目標を達成するため私たちにできることはなにか? わたしたちは、そのヒントを江戸時代の暮らしの中に見つけました。太陽と植物の恩恵を活用し豊かな物資とエネルギーをつくり出していた江戸時代の人々。衣食住のあらゆる面でリサイクル、リユースに基づいた循環型社会が築かれていました。その江戸時代の知恵を活かし、日常でできるアクションをはじめましょう。
<参考文献>
阪急コミュニケーションズ 江戸に学ぶエコ生活術
アズビー・ブラウン:著 幾島幸子:訳
江戸時代の庶民が持つ着物は数が少なく、中には普段着が1着しかない人もいました。人々は数少ない着物でどのようにやりくりしていたのでしょうか。その答えは「衣服のリユース・リメイク・リサイクル」です。着物が破れたりほつれたりしたら、一度ほどいて仕立て直し、継ぎ当てもしながら、何度も再利用していました。着られないまでにぼろぼろになると前かけやオムツ、巾着、風呂敷、雑巾へと再生させます。さらに雑巾は古くなると細い紐状に切って編み、室内用のわらじや小さい敷物にしました。それさえも擦り切れてしまったら、今度はそれを堆肥や燃料として活用し、後に衣服の材料になる繊維植物の生育に役立てていたのです。こうしたリサイクルは農村の各家庭で行われていました。着物を大切に使っていたのは庶民だけではありません。町人でもめったに新品の着物は買わず、きれいに洗濯した着物を古着屋へ持参して、現金を上乗せし次の古着と交換していました。古着屋も欲しがらないほどにぼろぼろになったものは、庶民が家庭で行っているのと同じようにリユース・リメイク・リサイクルさせる方法が町で商業化していました。
現代では、最新のトレンドを反映したアイテムを、低価格かつ短いサイクルで取り入れるファストファッションが台頭してきています。その解決策としてサステナブルファッションの仕組みが徐々に広がりを見せています。江戸時代の着物のあり方からヒントを得て、現代における衣服の廃棄を減らすためのアイデアを紹介します。
「衣服を長く着ることを楽しむ」
江戸時代の人々は、ほどいた着物を仕立て直す前にきれいに洗い、長い板に張って乾す「洗い張り」をしていました。こうすることで、布に張りが戻り補修しやすかったようです。長屋の井戸の周りには女房たちが集まり、文字通り「井戸端会議」を楽しむ人もいました。
現代でも衣服を補修する際に、デザイン性をプラスしたり、既成の服を自分らしくアレンジしたりして楽しんでいる人々を、SNSなどで多く目にします。また、最近では若い世代の間で古着ブームが再来し、ファッション誌やSNSなどで、古着中心のコーディネートが組まれています。衣服を大切にすることは単なる節約ではなく個性を表現する手段としても広まっているようです。
それでも、家庭から手放される衣服のうち、リユース・リサイクルされる割合は約34%で、残りはゴミとして処分されています。もし残りの全ての衣服が回収され、リサイクルを経て原材料に再供給された場合、最大で年間2,500万トンのCO2排出量が削減できます。これは東京都における年間のCO2排出量の約4割に相当します。今ある服を今年捨てずにもう1年長く着れば、日本全体で約3万トンの廃棄削減につながります(★1)。
①長く着る工夫
●衣服のメンテナンスを習慣化:洗濯、シミ抜きをこまめに行う。
・洗濯マークに従って傷まないように洗う。
・素材によっては洗濯ネットに入れて洗う。
・しみや汚れが残っていると、カビや虫食いの原因になるので、洗濯する前にポイント洗剤で手洗いする。
●お気に入りのアイテムを大切に:特に気に入っている衣服は、特別な日のために取っておき、日常的には少し控えめに使うことで長持ちさせる。
●古着店で宝探し:定期的に古着店を訪れ、自分らしいアイテムを見つける楽しみを味わう。
②衣服をリユース・リメイクする
●基本的なリペア技術を学ぶ:簡単な縫い方や刺繍の方法をオンライン動画やワークショップで学び、自分で衣服を修理する。
●家族や友人とリペア会を開催:定期的に家族や友人と集まり、お互いの衣服を修理、リメイクする時間を設ける。
●染め直しキットを使う:市販の染料キットなどを使って、色褪せた衣服を自分で染め直し、新しい色で楽しむ。
「衣服をシェアする」
江戸の町には4,000人の古着商がいたといわれています。着物は染め直し縫い直しが容易にできるリユース・リメイク・リサイクルするのに適した衣服だったので、古着を手入れして売るという商売が十分に成り立っていたのです。また、着物はほぼ同じ形でほぼ誰にでも合うワンサイズでつくられているので、共有するのにも重宝していました。
現在の衣服サイズ展開は号数、S・M・L、フリーサイズなどブランドやメーカーによってまちまちで、誰とでも共有できるわけではありません。ですが、すでに確立されている衣服のリサイクル回収の仕組みや安く譲渡しあうシステムを活用してシェアすることもできます。
環境省の発表によると、1年間1回も着られていない服が一人あたり約35枚もあるそうです。循環型ファッションの推進には家庭にしまい込まれている服の活用が課題です。また、手放された服の約19%しかフリマアプリや回収などを通じて古着としてリユースされていないという結果が出ています(★2)。
①衣服をリユース・リメイク・リサイクルに出す、譲渡する
●不要な衣服を定期的に見直す:衣替えのシーズンなど定期的にクローゼットの中を整理し、着なくなったものは、リサイクルや譲渡の準備をする。
●近隣のリサイクルボックスを活用:不要な衣服を近所にあるリサイクルボックスやリサイクルショップに持ち込む。
●オンラインで譲渡活動:不要な衣服をオンライン掲示板やSNSなどで譲渡する。あるいは、フリーマーケットアプリを利用して販売する。
②誰でも使えるワンサイズ
●フリーサイズの衣服を選ぶ:購入する際にフリーサイズを選び、家族や友人と共有できるようにする。
●調整可能な衣服をカスタマイズ:紐やゴムを使って、既存のものをフリーサイズに自分でカスタマイズする。
「天然素材で再生利用」
江戸時代では、ほとんどの農家は家族の衣服に使う木綿の布を自分たちで織っていました。また、布を織るための綿花を栽培する農家もありました。木綿の生産プロセスは、染色の前段階まではほとんど汚染物質を出さず、製品は再利用も再生もできるので、環境に優しいものでした。
現代では、衣服の素材に化学繊維も多く使われています。機能性・快適性・ファッション性などで優れている一方で、マイクロファイバー(化学繊維から出る極小の繊維)による環境への影響も注視されています。
●天然素材の衣服を選ぶ:購入時に麻、綿、ウールなどの天然素材で作られたものを優先して選ぶ。
●堆肥化やリサイクルのための情報収集:自分なりに天然素材の衣服を最終的に堆肥化したり、リサイクルに出すための方法を調べたりする。
「織る・編むというハンドメイドを楽しむ」
江戸時代の農家では、身の回りの道具や調度品は自分たちで作るのが普通で、それは着物についても同様でした。糸を紡いで機を織り、布にして縫っていました。武家地に住む人たちでさえも、着物のための布を織り、自前でできることは市場には頼らずに解決していました。また、各家庭で自給を完結させるのではなく、自家栽培のもので足りない場合には、隣近所や村全体の資源を活用することも心得ていました。
現代では、糸を紡ぐところから始める人は少ないですが、ハンドメイドは趣味としての人気が高く、各地で開催されている展示会には多くの人が集まります。
●家庭での手作りを楽しむ:簡単な織りや編みのキットなどを使って、自宅で手作りの衣服を作る。
●手作りの衣服を贈る:天然由来の素材を使用した布・毛糸を使って、作ったワンピースやセーターなどをプレゼントする。
●コミュニティーに織り機や編み機の設置を要望する:
地域のコミュニティーに、織り機や編み機を設置してほしいと声をあげる。その場所でそれらを使う体験という付加価値をプラスした要望も提案していく。
<イラスト・画像素材>
PIXTA
昨今、家庭から手放される衣服の量は年間約70万トン、うち約46万トンがゴミとして出されています。ゴミに出された衣服が再資源化される割合はたった5%ほどで、多くの衣服を資源として再活用することが求められています(★3)。まずは、今持っている衣服を大事に長く着て一人ひとりの廃棄を減らすこと。私たちのその小さな行動がゆくゆくは、ブランドやメーカーの営業活動や製造ラインに変化をもたらし、汚染や廃棄物が減っていくサステナブルなファッション文化を築くことにつながるでしょう。できることから少しずつ始めてはいかがでしょうか。
もちろん周りの人や友人、家族と話し合って、現代ならではの新たなアイデアを出すことも大切です。わたしたちも、みなさんも、サステナブルな意識を常にもって行動し続けていきましょう。
★印/出典:環境省ホームぺージ サステナブルファッション(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/)より作成