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SCOPE GROUP SDGs未来塾 第4回店舗SXセミナーを開催しました。「チェーンストアに必要な社会・消費者の変化への対応とサステナビリティーへの取り組み」

スコープグループは2023年4月、日本経済新聞社、元「日経MJ」デスクの白鳥和生(しろとり・かずお)さんをお招きし、SDGs未来塾「店舗SXセミナーVol.4」を開催。本格的なポストコロナの時代にチェーンストアに求められる変化対応についてご講演いただきました。今回は、講演の内容をダイジェストでご紹介します。

SCOPE GROUP SDGs未来塾「店舗SXセミナーVol.4」
テーマ:チェーンストアに必要な社会・消費者の変化への対応とサステナビリティーへの取り組み
講師:日本経済新聞社 白鳥和生(しろとり・かずお)さん
2023/4/7~4/23 オンラインにて配信

1.社会・消費者の変化

(C)Kazuo SHIROTORI 2023

コロナ禍は強制的に社会をアップデートさせました。コロナ前からの人口爆発、日本での高齢化、環境問題、デジタル化などが、加速度があがり、隠れていたものが露呈し、3年間で一気に進んだのだと思います。そして国民が社会課題を自分ごと化し、パラダイムシフトを起こさなければ社会は大きく変わらないことを認識し、サステナブル=持続可能なものとはどういうことなのかを問い直した時代でもあったと思います。ようやく落ち着いてきた中で、当たり前をリセットし、本質を考える絶好のチャンスです。

日本経済は6割の世帯が平均所得より低く、二極化が進む

いま日本は、平均所得は約550万円と言われていますが、400万円未満の低所得層は48.4%から54.2%へ増えています。高齢化で年金生活者が増える、シングルマザーの貧困などが背景にあります。また、600万円から800万円の所得層は15%から10%を切る水準まで下がっていて、これまでの小売業やサービス業の中心顧客であった人々が減ってきています。
富裕層向けと低所得層向けのビジネス2分化は、価格戦略も二極化していきますが、どの所得層にしても、消費者の楽しみ・選べる工夫、メリハリ消費に対応していくのが小売業・サービス業の課題です。

急がれる環境対応

サプライチェーン排出量スコープ3の削減という課題があります。いまや自分たちの企業だけが排出量削減すればいいという問題ではありません。サプライチェーンやバリューチェーンの中での連携がかつてないほど求められる時代がきています。2030年のSDGs目標値に向けて加速していき、企業はこの活動へのコストが発生していくことを理解する必要があります。この取り組みの目標は、地球温暖化の上昇を1.5度までに抑えること。化石燃料の使用を減らすことが求められていますが、ロシア・ウクライナ戦争の影響で、再度化石燃料に目が向けられてしまうという現実があります。一方、ビジネスチャンスもあり、循環型経済の一例で、食品ごみを資源化するマーケットの存在などがあります。

社会・生活者の変化とともに、企業も変化

大きく世界は変わっていることを強く印象付けたのは、2020年1月コロナが始まった頃に、世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンク会長兼CEOが投資先に対して出した書簡です。サステナビリティー関連情報を開示しない場合には、つまり、環境や人権問題に取り組んでいない企業に対しては経営陣と取締役に対して反対票を投じるという書簡だったのです。これはパーパス経営です。

(C)Kazuo SHIROTORI 2023

フィンク氏は書簡を通じて以下を言っています。“サステナビリティー関連に向き合う企業は顧客とより深く繋がり絶えず変化する社会の要求に適用でき、究極的には企業理念が長期的な収益性の源泉となる。なぜ私達の企業はこの社会に生まれ、この社会で貢献していくのか、あるいは支持されるものなのかということを問い直す良いきっかけがコロナでありESGの高まりである”と。本当に社会は大きく変わっているということがこの書簡でわかり、20世紀型の成長至上主義から、もっと多元的な成長社会になっていかなくてはならないのだと思います。
生活者の変化は、意味のあるお金の使い方をしたい人たちが増えていて、Z世代の若者層が社会課題を自分ごと化していることもひとつの兆しだと思っています。モノ消費から、コト消費へ、トキ消費へ、イミ消費へ、と移ってきています。

(C)Kazuo SHIROTORI 2023

この消費意識は、時間経過とともになくなるわけではなく、重層的に各意識が増えたり減ったり変化していると思われます。物価高騰や低所得者層が増えて安いものを求める中でも、ストーリー性やこだわりを意識する人は増えています。

2.チェーンストアに必要な変化対応とは

(C)Kazuo SHIROTORI 2023

変化対応に求められるビジョンとは

マーケットが縮小する中で、新しく良さそうなマーケットには異業態も集中する可能性があります。ガソリン車を作っていたメーカーが、いつの間にかEVのイーロン・マスク氏に足元をすくわれるような時代が到来しています。そうした時代であることを見据えて、目配りをしなければいけません。

また、「正解」がコモディティ化しています。AIロボットによる機械学習で論理的な正解には誰もが到達できるようになり、同質競争の危険性があります。スピードを上げるかコストを下げるかの疲弊から企業を救うのは、サイエンスに縛られない発想による新しいビジョンだと思います。

■社会デザインをする視座でLTVに取り組む

このような時代に何を大事にすれば成長できるのでしょうか。顧客生産価値(LTV:ライフタイムバリュー)にあらためて注目です。1人のお客さまが生まれてから亡くなるまで、そのブランド企業店でどれだけお金を使ってくれるのかということが重要であり、お客さまを一元さんとしてではなく資産として捉えます。また、1人のお客さまの課題解決は、社会の課題解決につながります。むしろ、社会全体に着目すれば多くのお客様に対応できるのです。1人を対象とする新商品や新サービスの企画であっても、社会全体を俯瞰した視座から考えるのが、2023年以降の新戦略、事業推進の要で、社会デザインなしに、ビジネスはありません。

3.成長戦略のためのサステナビリティーへの取り組み

■SDGsの発想がヒントになる

SDGsとは?と問われて、「Transforming our world」だと答えられる人は意外と少ないかもしれません。このTransforming=変身・変革が重要なのです。よく例えられますが、さなぎがモンシロチョウに変身する状態を想像してください。非連続的に変身するのです。Innovationを起こさなければ社会は変革できないことをSDGsは示しています。未来を考える人としてSDGsをひとつベースに考えることを今日は提案したいと思います。
そして、SDGsは、2030年を目標にバックキャスティングで考えます。

(C)Kazuo SHIROTORI 2023

ありたい未来をゴールとして、そこから逆算して何をやっていくのかを考える思考法で、ゴール達成のためにTransforming=変身・変革=Innovationを起こすのでSDGsでは必須とされています。予想不可能な時代だからこそそれを超えて事業を創造することが、これからは重要なのです。最後に、繰り返しになりますが、ありたい未来の社会の中で、自分たちの製品・サービスはどのような使われ方をしているのか、どのように貢献しているのか、貢献するビジネスはなんだろう、ということから発想してみてください。そして、未来を自ら切り開いていく覚悟を持って取り組まれることを切に願っています。

■社会デザインなしに、ビジネスはない。

課題が多い中、「企画から構想に視座を変える」という意識変化が必要ではないかと考えます。利益を追求するばかりでなく、一方で、人間の幸せという大きな目的のもとに、想像力、構想力を駆使して、社会やお客様に働きかけ、様々な関係を調整して整えていくことが必要です。

・ビジネス:自社とその他の境界線はなくなっている

・事業企画:どんな新しい商品・サービスがいいか考える(商品・サービス中心)

・事業構想:新しい世界での生活・動き方から、そこで必要とされるもの・その実現への道筋を考える(新しい社会の中にある商品・サービス)

(C)Kazuo SHIROTORI 2023

4.Q&A

Q:予算面がネックとなりSDGs推進の壁となっている時には?
A:スーパーマーケットなどの小売業は、どこまでできるのか・どこまで取り組んでいくのかを生活者、業界団体、自治体に伝えることが重要です。大切なのは志です。

Q:狭小商圏化へのヒントは?
A:狭小商圏化に対しては地域のお客様の最大公約数をとらせていただく必要があり、LTVに取り組むこと、新たなコミュニティーとしてのハブになることで持続可能な関係をつくっていけると思います。

Q:SDGs視点がビジネスや企業発展のヒントになることを学び、より幸せな社会をつくる明るいイメージを持つことができました。
A:的確な「解」をご提示することはできませんでしたが、皆様のビジネスに少しでもお役に立てたなら幸いです。

<講師プロフィール>

白鳥和生(しろとり・かずお)さん
日本経済新聞社 総合編集センター調査グループ調査担当部長。国学院大学経済学部、日本大学大学院総合社会情報研究科の非常勤講師。著書に『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)「ようこそ小売業の世界へ」(商業界)「即!ビジネスで使える新聞記者式伝わる文章術」(CCCメディアハウス)などがある。

日本経済新聞 白鳥和生プロフィール
https://www.nikkei.com/journalists/21070602

<著書紹介>

(C)Kazuo SHIROTORI 2023

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スコープグループは、「SCOPE GROUP SDGs未来塾」の開催を通じて、皆様とともにSDGsの達成に向けた社会課題の解決について考え、そしてアクションを起こしてまいります。今後のセミナー開催予定はPeatix「SDGs未来塾」などでお知らせしてまいります。皆様のまたのご参加をお待ちしております。